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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1429号 決定 1980年1月18日

抗告人 大和絨毯株式会社

右代表者代表取締役 清水康一

右代理人弁護士 福長惇

相手方 ユニオンハイムテキスタイル株式会社

右代表者代表取締役 永峰壮一

主文

本件抗告を却下する。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。本件を原裁判所に差戻す。」との決定を求めるというにあり、その理由は別紙のとおりである。

しかしながら、仮処分決定に対する異議の申立てに伴う執行の停止又は取消しは、当該仮処分の内容が権利保全の範囲にとどまらず、その終局的満足を得させ、もしくはその執行により仮処分債務者に対し回復することのできない損害を与える虞れのあるような例外的場合にのみ許されるものであるところ、仮処分決定の執行の停止又は取消しの手続の附随的性格とその効果の暫定的、応急的性格にかんがみれば、申立てをうけた裁判所がこれを認容して右執行を停止又は取り消すべきものとするか、申立てを相当でないとして却下すべきものとするかは当該裁判所の慎重な判断に委ねらるべきものと解すべく、当該裁判所が申立てにつき実質的な審査をしてその許否を判断した場合には、民事訴訟法五一二条二項、五〇〇条三項の準用により、右判断の不当であることを理由としてその裁判に対して不服を申し立てることは許されないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四四年九月二〇日決定・民集二三巻九号一七一五頁)。

これを本件についてみるに、記録によれば、抗告人は、相手方を債権者、抗告人を債務者とする静岡地方裁判所沼津支部昭和五四年(ヨ)第二一八号有体動産仮処分申請事件において、相手方が本決定添付別紙物件目録記載の物件を抗告人方工場から搬出することを妨害してはならない旨の仮処分決定をうけ、これに対し同裁判所同年(モ)第六八三号事件をもって異議申立てをするとともに、右仮処分決定は、相手方に係争物件の搬出という自力執行を許容するに等しく、執行保全の目的を著しく逸脱し、相手方に権利の終局的満足を得させるものであって、その執行は抗告人に回復しがたい重大な損害を生ぜしめるものである旨主張し、疎明資料を添えて本件執行停止の申立てをしたところ、原裁判所は、審理の結果、一件記録及び疎明資料によるも抗告人の右主張を認めることはできないとして、右申立てを却下する旨の原決定をなしたことが明らかであるから、先に述べたところに照らし、原裁判所の右判断が不当であることを理由とする抗告人の本件抗告は不適法なものといわざるをえない。

よって、本件抗告を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小林信次 裁判官 浦野雄幸 河本誠之)

<以下省略>

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